シュガーアップル・フェアリーテイル 銀砂糖師と黒の妖精

なんだろう、この男子がイメージする少女小説を具現化したかのようなテンプレート作品は。
特に黒執事などの従者系男子が流行したときの小説を連想させられる。作品の出来自体は確かに一般流通作品レベルである。ただこれを大賞とせずに審査員特別賞とした理由が何となくわかる作品でもある。
 
あらすじは……
人間が妖精を使役する、ハイランド王国。少女アンは、一流の銀砂糖師だった母を亡くし、あとを継ぐことを決意する。銀砂糖師とは、聖なる砂糖菓子を作る特別職のことで、王家勲章を持つものしか名乗れない。用心棒として、美形だが口の悪い戦士妖精のシャルを雇い、旅に出たアン。人間に心を閉ざすシャルと近付きたいと願いつつ、王都を目指すけど…。第7回小説大賞審査員特別賞受賞作。
 
作品の出来自体はとても高い。こんな作品をいきなりポンと出されたら何かしらの賞は受賞する、そんなレベルである。
ただ、大賞とか金賞とかそういう賞を受賞するのには適さない。そういうのを受賞するほど強烈な個性というかインパクトがこの作品にはない。
王道的テンプレートに作者のオリジナリティを加えた、すでに作家として何作か出している人が書いたような落ち着きと定番さがある作品なのだ。新人作家によく見られる研ぎ澄まされた部分がこの作品からは感じられなかった。
ああ、だから審査員特別賞なんだなぁと読み終わった後に思ってしまった。
 
では、単純に面白い面白くないかの二択で言えば、面白い。
テンプレに感じる展開を作者のオリジナリティあふれる設定がうまく味付けしており、安心して読み進められる。
奇抜なアイディアの作品が横行する中で、作者のオリジナリティあるアイディアはすんなりと受け止めやすいもので誰にでもオススメできる。
恋愛色も薄めで、落ち着いたファンタジーを読みたい人には特にオススメ。
 
ただまぁ問題点もあるわけで、主人公・アンは「妖精と友達になりたい」と願う子なのです。で、母親も同じ理想を持っている。なのに、中盤辺りで妖精とほとんど接触したことがない、と口にするんですね。
微妙な齟齬と言うか、小骨が喉に引っかかるような感じをここで感じてしまう。
いっそ、銀砂糖で砂糖菓子を作るときに妖精の魔法が必要とか、砂糖林檎という銀砂糖を精製する果物を取れるのは妖精だけとか、そういう設定があったり、一流の銀砂糖師には銀砂糖妖精がいるとかあるとなお良かったかな。で、その銀砂糖妖精を他の銀砂糖師は使役しているんだけど、アンの母親だけは使役せずに友達としていた、なら色々と良かったかもしれない、とも思う。
 
まぁそういう想像をしてしまうくらい作品の出来は良い。
テンプレな部分もあるので先読みが容易かもしれないが、そこはそれ。
少女向け王道ファンタジーを読みたい人はぜひ手にとってみることをオススメする。
 
良い作品です。これで税別457円なんだから格安。