手焼き煎餅の密室

手焼き煎餅の密室 (創元推理文庫)

手焼き煎餅の密室 (創元推理文庫)

久しぶりの新作は、連作短編ミステリィで帯にある読み応え抜群という言葉に頷かずにはいられない出来でした。
米澤穂信作品が好きな人は一緒に買っとけ、と布教したい作家です。
 
本作は、連作短編ミステリーの形式をとる一冊で、本シリーズの前日譚となっています。
物語はまだ『水島のじいちゃん』が生きていた頃のお話で、一つ一つのお話が互いに繋がり、さらに本シリーズ本編の設定にも繋がるところが読んでいて楽しくてしょうがなかったです。
 
本作は元が富士見ミステリー文庫だったこともあってか、なんと今作では挿絵が挿入されています。
このサプライズにはさすがに驚いた。創元推理文庫でまさかこんな形式で来るとはさすがに予想していなかった。
 
今作のすごいところは無駄が一切はぶかれているところだ。全てが伏線であり、全てが作者から提示された推理に必要な要素なのである。そしてきっちりと推理をしてくれるから延々と悩まされる心配もない。もちろん、読者も推理できるし、人によっては簡単と思えるかもしれない。
連作短編という形式もあってとんとん拍子で進むので実に心地よい。
ミステリー小説のお手本ともいうべき完成度の高さはミステリー初心者には実に読み応えのあるものに仕上がっていると思うし、ミステリーを読み込んでいる人も十分楽しめるクオリティだと思う。
前作から随分と期間を空けての刊行だが、毎回このクオリティなら文句は言えない。
 
何より驚いたのは、主人公たちの出会いの部分である。前日譚であるため、美波と修矢は出遇っていないし、さらにかのことまでまだ会っていないのだ。本シリーズを読んでいると三人の仲の良さがとても伝わってくるので、実はこういう流れだということには素直に驚いた。
また、モネちゃんや美咲お母さんの意外な一面も興味深い。
特に美咲お母さんが実は〜だとは本編を愛読していた身としては驚くばかりだ。ここからどう本編に繋がっていくのか、興味が尽きない。
 
とにかくミステリーとしての完成度が高く、初心者向きなためラノベ米澤穂信とミステリーをあまり読まない読者にオススメな第2ステップに最適な作者の本である。
ここからミステリーの面白さを知り、そちらへ手が伸びていってほしいものだ。
 
個人的な注文を上げるならもうちょっと明るい雰囲気が本作には欲しかった。
修矢が本編とはかなり異なる性格描写なのと、全体的に漂うくらい空気が少し重い。そのなかで直海の快活さは一種の清涼剤となっていて心地よかったが。
 
これから、武熊さんと修矢の出会いや水島じいさんの死、三人娘の出会いと本編へ通じる要素が沢山あってまだまだシリーズが続いてくれることが素直に嬉しい。
本編でも今作みたいな連続短編形式で出て欲しくもある。
なんにしろ、久しぶりの新作、ありがとうございました。