エノーラ・ホームズの事件簿

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ルルル文庫の海外翻訳シリーズの筆頭作品『エノーラ・ホームズの事件簿』の最新刊が発売されました。
相変わらず男性が買うには恥ずかしい表紙ですが、そんなことにもかかわらず、開店直後の本屋に行って男性店員に聞いて出してもらいました。そして即効で読破しましたとさ。
 
高坂戒といえば『エノーラ・ホームズの事件簿』を一押しする、と思ってもらってもいいくらいこのシリーズだけは外せません。
今回は今まで敵対していたホームズ兄妹が手を組む、なんて帯に書いてあってこれを読まずして何を読む? と言いたいです。
この作品が面白いのは、主人公のエノーラが追う者であり、同時に逃げる者であることだ。この形はアメリカ映画や海外TVなどでよく見られるストーリーだが、日本ではさほど多くない。日本だと追う者であるパターンや逃亡者であるパターンといった単一パターンは多いが、同時であることはあまり多くない。
それに加えて、相手はシャーロック・ホームズである。これほど読者にわかりやすい追跡者はいないだろう。
 
しかし、残念なことにこの作者は今回に限ってはいささか表現が偏りすぎている傾向が出ている。正確には前回もそうかもしれないが、ちょっとシャーロック・ホームズを過小表現している。
シャーロック・ホームズといえば小説を読まない人間でも知っている名探偵である。ならば、その存在はそれ相応のカリスマ性を持って描かなければいけないのだが、今回はエノーラを活躍させようとするあまり残念な結果となっている。
出来れば次回作ではエノーラを上回るシャーロックの姿を見せて欲しい。その姿があるからこそ、そのシャーロックから逃げるエノーラが輝くはずなのだ。決してシャーロックを落として対等になることがエノーラを魅力的な女性にすることではないのだと知っていて欲しい。
 
とまぁ、一番気になった点は上記のとおりである。
今回はそれに加えてさらに残念な部分がある。それは挿絵だ。原作にはない、ルルル文庫だからこそ付くイラストは読者にとって嬉しいものに違いないが、今回のカラー挿絵は失敗だ。これは本編の驚きを壊している。
シャーロックとの挿絵はまぁ許容範囲内だ。まだ本編を読んでない状況でこの挿絵は興味が引かれるものとなってくる。
しかし、マイクロフトにベールを投げつけるシーンをカラー挿絵で持ってきたのは失敗。この挿絵のせいで、せっかく原作者が考えた驚愕の展開(サプライズ)を台無しにしている。ここは白黒の挿絵だけで十分だった。もし、このカラー挿絵がなければ読者はエノーラと一緒にサプライズを起こす気分でワクワクしたに違いない。それがこの挿絵で今後の展開が先読み出来てしまった読者は同じ気分を味わえなくなってしまう。
だって、登場することがわかっているのだからドキドキしようがない。
どうせなら157ページの挿絵をカラーで描いて欲しかった。それも、すれ違う場面をだ。このシーンなら読み手はもっとドキドキしたはずだし、エノーラと同じサプライズ気分も味わえただろう。
 
今回はそういう残念な部分があったものの、ストーリーとしてはやっぱり好きだ。
第一章と第二章の冒頭なんて物語の始まりとしては完璧だ。この部分だけでエノーラの全てが描かれているといってもいい。この部分だけで読者はぐっとエノーラの物語へと引き込まれるはずだ。
そこから好奇心旺盛に駆け回る姿は実に微笑ましい。特に73ページの5行目と第九章の冒頭の表現には拍手を送りたい。これは訳者の表現方法が素晴らしすぎる。エノーラの魅力が溢れ出ている。
そしてエノーラとシャーロックの邂逅。
このシーンが今回の物語の肝だろう。
巻を追うごとに一つ一つ家族の物語が進んでいくところがこの物語の魅力の一つだ。
 
魅力といえば、エノーラの変装も忘れてはいけない。今回も前回までと負けず劣らず様々な変装をみせてくれる。その一つ一つに詳細な説明が加わり、ぶっとんでいる。この辺りの作者の自己中な傾倒は大好きである。こういう特化した部分もなければ面白くない。
 
この秋にはさらに続刊が発売されるらしい。この刊行ペースは嬉しい半分、不安も含まれる。
お願いだから簡単に消費される道だけは歩まないで欲しい。今のボクにはこの作品ぐらいしか新しいもので期待している作品はないのだから。